牡丹が咲いたわよ
香川照之の 「おうちで、昆虫すごいぜ」 を見終わって、
お茶でもしようかと腰を上げたら、ケータイが鳴った。
「あ、しばらく。元気かしら?」 実家の前の家の奥さんだった。
「あ、どうも。ご無沙汰してます」 余計なことは言わない。
「突然ごめんね。牡丹が咲いたのよ。あの時もらった、2本とも」
「まあ、そうなんですか」
2年前、両親の3回忌を終えて実家の処分を始めた時、
次々と起こる問題に私は一人パニックになった。
家の中の片付けだけで精一杯。庭のことまでは頭が回らない。
そこへ前の家の奥さんが、
庭に重機が入る前にせめて牡丹だけでも、と言ってくれたのだ。
「きれいな色なの。嬉しいから早く知らせたくて」
「ありがとうございます。こちらこそ嬉しいです」
母の育てた花が、よその家の庭に根を下ろし、再び花を咲かせる。
そのことをわざわざ知らせてくれる人がいる。
私たちが越してきたのは、1964年の春。
あそこで子供たちは大きくなり、
70年連れ添った父と母は、あの家で50年以上も暮らした。
ご近所さんとの繋がりを母はとても大事にしていた。
巣ごもりが続く雨の日にも、明るいニュースは届く。
次の日曜日はこのリビングに、季節の花を飾ってみようか。
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